「開会式・閉会式」インタビュー vol.03

ピアニストの辻󠄀井伸行さんと、東京2020組織委員会の東京2020有識者懇談会委員の澤和樹さん

今回は、ピアニストの辻󠄀󠄀井伸行さんと、東京2020組織委員会の東京2020有識者懇談会委員の澤和樹さんへお話を伺いました。

澤和樹さん(以下、澤)
今までで印象に残っているオリンピック・パラリンピックはありますか。

辻󠄀井伸行さん(以下、辻󠄀井)
オリンピックはわりと小さい頃から家族と見ていました。選手の方たちの素晴らしい笑顔なども感動しましたが、私の場合は、北京オリンピックでラン・ランさんがピアノを弾いているのを見て、私も弾いてみたいなと思ったのが印象に残っています。それがきっかけで、実は東京でピアノを弾くのが自分の夢です。パラリンピックもずっと見ているのですが、みなさん障がいがあるにも関わらず、とてもレベルが高いことにいつもビックリします。オリンピックと同じくらいのレベルでみなさん頑張っていらっしゃるので、それはすごく素晴らしいことだなと思っています。


私が小学校4年生の時に1964年の東京オリンピックが行われました。競技にも興味ありましたがすごく印象に残っているのが、オリンピックのファンファーレですね。ファンファーレというと普通、祝典的な賑やかな曲というのが普通だと思うのですが、国歌を聞いているような厳かな雰囲気を感じまして、短い曲でしたが、とても印象に残っています。

夢に向かってチャレンジしたいという気持ちを持つきっかけにして欲しい


東京2020大会がどの様な大会になったらいいと思いますか。

辻󠄀井
オリンピック・パラリンピックというのはとても大きな行事ですし、今回、東京で実現できるということはとても嬉しいことです。単なるお祭り騒ぎ的なパフォーマンスではなく、人間の持っている可能性を最大限に生かして、何かテーマのあるものにしていけたらいいなと思っています。私自身は小さいころからピアニストになりたいという夢があり、その夢に向かって常に大きな目標を立てて頑張ってきました。2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールに挑戦した時は、オリンピックに挑戦するのと同じくらいの気持ちでした。そこで優勝して1人の音楽家としてみなさんから評価して頂けたことがとても嬉しかったです。ただ、コンクールは私にとってのゴールではなく、プロとしてのむしろ出発点でした。今も色々なところで演奏していますが、毎回場所やプログラムが違いますし、気持ちの面も変わりますので、毎回が私にとって挑戦です。常にチャレンジの気持ちを大切して臨んでいます。そういう意味ではアスリートの方の気持ちも共感できる部分もあるのではと思っています。チャレンジの気持ちを大切にして、東京2020大会を素晴らしいものにしていけたらいいのではと思っております。

インタビュー中の辻󠄀井伸行さん


日本は島国であり、また江戸時代に200年以上鎖国をしていたこともあり、グローバル化や国際化ということが常に言われていると思います。ただ、日本が今、世界の一員としてどのような役割を担ってゆかなければならないかということを考えている日本国民はまだまだ少ないのではないかと思うのです。この大会を通じ、世界における日本の立ち位置はどうなのか、このままでいいのかということを考えるきっかけになればと思うのです。辻󠄀井さんは、若い人たちや子供たちの考え方が、オリンピック・パラリンピックをきっかけに、この様に変わったら良いのにと思うことはありますか。

辻󠄀井
先ほどもお話しましたが、私自身は小さい頃からピアニストになりたいという夢があって、その夢に向かって頑張ってきました。オリンピック・パラリンピックは4年に1度の大舞台ですし、そこに出場する選手も夢に向かって努力して頑張ってきていると思います。若い人や子供たちにも、自分の好きなことを見つけて、その夢に向かって、常にチャレンジしたいという気持ちを持つきっかけになって欲しいと思います。

障がいのあるなしに関わらず、みんなが一緒に何かできる開会式・閉会式になったら面白いと思う


オリンピック・パラリンピックの開会式・閉会式がどの様になればいいと思いますか。

辻󠄀井
私の考えなのですが、競技をオリンピックとパラリンピックで一緒にやるのは難しい部分もあると思うのですが、開会式・閉会式というのは一緒にやれる部分もあるのではないかと思っています。例えばですが、オリンピックとパラリンピックの開会式・閉会式を一緒にやったら面白いのではないかと思います。両方の選手が一緒にみんなで入場行進して、スポーツを通して、お互いにエールを送りあうという素晴らしいものになるのではないかと思っています。もちろん、
障がいがあることで、できないことが出てきてしまう部分もあるかもしれないですが、出来ればみんなで一緒になにかできることを良い形でできたらいいのではないかと思っています。


そうですね。今度、辻󠄀井さんがピアノのソロを弾かれて、私が指揮をするオーケストラと共演する予定がありますが、障がいのあるなしに関わらず、同じ土俵で一緒に音楽を作ることが出来ますよね。また、私が今いる東京藝術大学では、障がいとアートという取り組みをしていますが、これは音楽に限らず、美術や書道といったものを一緒に楽しむ機会を作り、新しいものが生まれる場所となればと願い行っている取り組みです。さきほど、辻󠄀井さんがパラリンピックで障がいのある方たちもオリンピックと変わらないくらいの素晴らしいパフォーマンスをされているとおっしゃいましたが、障がいがあったとしても夢に向かって努力した結果として素晴らしいものが生み出されていることはすごく感動を呼ぶことでもあると思うのです。たとえば、べートーヴェンは聴力を失っています。音楽家として聴力を失うことはある意味絶望的なことであると思うのですが、逆に心の音を聴くと言っていいような内面に訴える名作をその後書いていますよね。

インタビュー中の澤和樹さん

辻󠄀井
日本には古くから歌舞伎とか能とか茶道とかいろいろと素晴らしい文化があるので、こういった伝統的なものと、音楽とが何か面白い形でコラボレーションするというのもありかなと思っています。


そうですね。芸術、特に音楽は、異なる言語を話している人たちでも同じ曲で共演ができ、共に喜びを分かち合い、また聴いてくださる方たちにも喜んでもらえる。そのように皆が協調することが凄くプラスに出やすいものだと思います。オリンピック・パラリンピックの開会式・閉会式では、スポーツだけでなく、芸術や文化の祭典でもあるということで、芸術的・文化的な要素を様々な形で取り入れていただきたいですね。

オリンピック・パラリンピックはとにかく華やかでカッコよく、みんなが明るくなるような曲がいい


辻󠄀井さんが開会式・閉会式で何か演奏してくださいとなりましたら、どんなことがしたいですか。

辻󠄀井
私は音楽家なので、音楽で表現することしかできませんが、世界が平和になって欲しいということ、そして大会が素晴らしいものになることを願って演奏させて頂ければいいなと思います。


もし、開会式・閉会式の場でソロ演奏をすることになった場合、何を演奏しますか。

辻󠄀井
オリンピック・パラリンピックは華やかな舞台ですし、華やかな曲を弾きたいなと思いますね。例えばですけど、ショパンの英雄ボロネーズという曲は、僕が好きな曲なのですが、ショパンの中でも名曲で華やかですし、オリンピック・パラリンピックにも相応しい曲だと思います。もちろん他にも、そういう相応しい曲はあると思いますが、とにかく華やかでカッコよくて、みんなが明るくなるような曲がいいなと思います。


最後にみなさんに一言頂ければと思います。

辻󠄀井
オリンピック・パラリンピックが東京で実現するってことはとても嬉しいことです。とにかく素晴らしいものになってほしいですし、もし何かしらに関わらせていただけるのであれば、私は音楽家なので演奏することしかできないですけれども、いろんな日本の素晴らしさとか、日本人の礼儀正しさとか、素晴らしいものもたくさん音楽で発信していきたいですね。素晴らしい日本の良さを世界に伝えていきたいです。自分は障がいを持っていますけれども、障がいのあるなしに関わらずみんながひとつになって、世界が平和になって、みんなで喜びを分かち合える、歴史に残るようなオリンピック・パラリンピックになってほしいっていうのが私の願いです。

インタビュー中の辻󠄀井伸行さん

プロフィール

辻󠄀井伸行 1988年9月13日生まれ ピアニスト。
出生時から眼球が成長しない「小眼球」と呼ばれる原因不明の障がいを負っていたが、幼少期からピアノを始め、2009年、第13回 ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで日本人として初の優勝を果たし、以来、日本を代表するピアニストの一人として国際的な活躍を続ける。

澤和樹 1955年1月5日生まれ 東京2020組織委員会東京2020有識者懇談会委員、東京藝術大学学長、ヴァイオリニスト。
4歳よりヴァイオリンを始める。 ロン=ティボー、ヴィエニアフスキなどの国際コンクールに入賞、イザイ・メダル、ボルドー音楽祭金メダル受賞などヴァイオリニストとして国際的に活躍。2015年には英国王立音楽院名誉教授に就任。