「開会式・閉会式」インタビュー vol.05

プロ車いすテニスプレイヤーの国枝慎吾さんと、東京2020有識者懇談会委員の大日方邦子さん

今回は、パラリンピアンでプロ車いすテニスプレイヤーの国枝慎吾さんと、東京2020組織委員会の東京2020有識者懇談会委員の大日方邦子さんにお話を伺いました。

大日方邦子さん(以下、大日方)
今までで印象に残っているオリンピック・パラリンピックはありますか?

国枝慎吾さん(以下、国枝)
アテネ2004大会から4大会に出場していて、どれも印象に残っているのですが、ロンドン2012大会は特によかった思い出があります。イギリスは、ウィンブルドンが開催されるなどテニスが盛んな国なので、テニスをよく知っているお客さんが多く、試合中、「ここで点を取ったらこの選手は流れを持っていくな」というポイントで盛り上がってくれるので、選手として非常にやりがいを感じました。また、「テニスを見たい、車いすテニスを見たい」と競技を見たくて、自発的に会場に足を運んできてくれているお客さんが多いという印象も受けました。

インタビュー中の国枝さん

大日方
そうですね。ロンドン2012大会では私は観客として会場にいたのですが、競技を知っている方たちと観ていると競技の面白さや見どころがわかり、非常に面白い大会でした。また、開会式・閉会式も凄く盛り上がったと思うのですが、特に閉会式が印象的でした。ものすごく活躍したエリー・シモンズさんという地元の水泳の選手がいるのですが、彼女が出て来た時に、子ども達が少しでも彼女に近づきたいということで身を乗り出し歓声をあげているのを見て、彼女は子供たちのスーパースターなのだと感じました。そこには、オリンピック・パラリンピックという考えはなく、かっこいいアスリート・憧れの選手であるという感じが素直に出ていて感動しましたね。

国枝
本当にロンドンはパラリンピックをスポーツとして見てくれているなと、プレーをしている側も感じたので日本もそうなってほしいなと思いますね。大日方さんは、長野に出場されていますが、他の大会と違うところがあったりしましたか。

大日方
長野のパラリンピックは開催国の選手ということで、応援に来てくれた人や周囲の人たちがもの凄く盛り上がっていて、自分の気持ちもうまい具合に引き出してもらえました。自国開催というものがいかに違うのか、選手にとっていかに特別なものなのか、ということを実感しました。

パラリンピック成功のために、スーパースターが出てきてほしい

大日方
東京2020大会がどの様な大会になったらいいと思いますか。

国枝
オリンピックの方は自然と盛り上がると思うのですが、パラリンピックをどう盛り上げていくかということに問題意識を持っています。これは、大会にどれだけお客さんが入るかということだけではなく、大会が終わった後も競技が盛り上がり続けるためにはどうしたらいいかということなのですが、一番単純なのはやはり、パラリンピックでも国内外問わず、お客さんがその選手を見たいと思うようなスーパースターが出るということだと思います。結局は、選手がどれだけ魅力的であるかというところがパラリンピックの成功に関わってくると思いますし、その後もスーパースターがいればきっとその競技は盛り上がり続けると思います。

インタビュー中の国枝さんと、大日方さん

大日方
今、パラリンピックの選手で知っている人と言ったら、国枝さんの名前があがってきますよね。

国枝
うれしいことですが、どんどん他の競技の選手の名前も出てきてほしいです。目的の選手を見に足を運ぶ人が増えるということが、純粋なスポーツの価値だと思っているので、そういう選手が増えてほしいです。

大日方
そうですね。そのためにはまず、パラリンピックの選手がアスリートとしてかっこいい、という意識を持ってもらえるようになる必要がありますね。先ほど国枝さんもお話されていましたが、私もスキーをしていて日本と世界とでは、観客の競技への知識が正直違うなと思います。日本では競技をしていても、自分が見てほしいポイントと違うところで盛り上がったりすることがありますが、ヨーロッパなどスキーをよく知っている国ですと、インタビューでは、専門的であったり鋭い質問をされます。これは、パラスポーツだからとかという見方ではなく、一つのスポーツとして見てくれているかどうかというところの違いかと思います。

国枝
僕がパラリンピックの選手として少しみなさんに知られるようになった理由はおそらく、テニスのグランドスラムが健常者と車いすとで完全に同時開催しているというのが一つの理由だと思っています。先日もウィンブルドンに出場しましたが、フェデラー選手がいるロッカーの中で僕たちもいて、会場に見に来てくれた人は健常者だけでなく車いすテニスも一緒に目にするので、車いすテニスに触れる機会がものすごく多いです。その結果、イギリスやフランスにはお客さんをすごく呼べる車いすテニスの選手というのが何人もいます。色々な問題はありますが、出来る限りパラリンピックのスポーツとオリンピックのそのスポーツを同じ期間に同じ場所でやるべきで、そうしないと真のファン獲得には繋がらないと思っています。すべての競技に対して、そういうチャンスをこれから作っていければなと思っています。

インタビュー中の国枝さん

大日方
そうですね。よくオリンピックの中にパラリンピックを混ぜるとか、パラリンピックをオリンピックの前にするとか色々な意見があると思うのですが、選手からすると、一緒にやれない理由を探すのではなく、やれる事、やれる方法をどんどん考えて、実現していければいいのにと思います。スキーも、本当はテクニカルには健常者と障がい者の大会が一緒にできればと思うのですが、スキーの板が一本だけだとゴールできないというルールがあって、それに阻まれています。先ほどのウィンブルドンのお話を聞いていて思ったのですが、健常者と同じロッカーを一緒に使って、それぞれのコートで行われる試合に出ていくということですか?

国枝
そうですね、そのあたりは一緒ですね。これは、車いすテニスがプロフェッショナルなスポーツになってきているということだと思います。環境だけでなく賞金に関しても、グランドスラムは他の大会に比べて桁外れによく、それだけである程度食べていけるような状況になってきています。健常者の方にオリンピックとグランドスラムのどちらに勝ちたいかと聞くと、ほとんどの選手はグランドスラムと答えるのですが、車いすテニスもこういう選手が増えてきていまして、パラリンピックとグランドスラムは同じぐらいの価値になってきています。ここ数年の変化なのですが、これは非常にポジティブなことだと思っています。

大日方
目指すところはやはりそういうところですよね。別々にやる大会があってもいいですが、一緒にやる大会があることによって、観客やファンが広がり、選手同士も交流でき、その中でスポーツの価値というものが自然と広がってくれればいいと思いますし、そのきっかけが東京2020大会となれば大きなレガシーになるのではないかと思います。

出場する選手のことを考えた開会式・閉会式に

大日方
オリンピック・パラリンピックの開会式・閉会式がどの様になればいいと思いますか。

国枝
そこまで深く考えたことはないですが、開会式で言いますと基本的に拘束時間が長い印象があります。入場行進までに何時間も外で待つので、それは何とかしてほしいです。イメージですが、午後3時ぐらいに集まって開会式が終わるのが9時ぐらいなので、6時間ぐらい拘束されることになり、翌日が試合だとコンディション的に厳しいですね。

大日方
私も、いつもダウンヒルの試合が開会式の翌日に行われるので、拘束時間が長い開会式は、出るか出ないかすごく悩みます。ただ、初めて出たリレハンメルの開会式は、すごくわくわくしたのを覚えていますね。

インタビュー中の大日方さん

国枝
たしかに、入場行進で入ってくる時はとてもエキサイトするので覚えていますね。ただ、いつも思うのですが、開会式の演出はスタジアムの席から見てわかるようになっているので、入場してスタジアムに入っても何をやっているのかがわからないことが多いです。

大日方
そうですよね。一応見えるのですが、モニターも角度によって見えなかったりして、どこで何が行われているのかわからないまま、会場が盛り上がって終わりということありますよね。聖火については何か覚えていらっしゃることありますか。

国枝
聖火については点灯するところを見ると、これから大会が始まるなっていう思いになるのでわりと覚えていますね。

大日方
私は、聖火については開会式よりも、これで大会が終わったのだなと感じるので、閉会式で聖火が消える方が印象に残っています。開会式で誰が最終ランナーになるかというのも興味はあるのですが、聖火が消える演出も印象的であってほしいなと思っています。国枝さんが、閉会式について印象に残っていることはありますか。

国枝
やはりプレッシャーから解放された後なので、みなさんおっしゃりますが、知り合いの選手と写真を撮ったり、選手同士で交流したりしています。あと、最近閉会式で地元のコンサートのような演出が増えていると思うのですが、あれはどうなのかなって思っています。地元の人達は盛り上がるのですが、知らない歌手が出てくるので、どう振る舞ったらいいのか戸惑うことが多いです。

大日方
たしかに、どこが凄いのかわからず戸惑うことありますよね。私は、長野1998大会の閉会式が凄く印象に残っています。当時まだパラリンピックは全然知られていなかったのですが、開会式直前に盛り上がり始めて、閉会式で何かできることはないかという話になり、全国からたくさんの千羽鶴が送られました。会場に着くと、会場いっぱいに鶴が置いてあって、みんなでその鶴を首からかけて、入場しお互い健闘を称え合ったのですが、鶴に込められた温かい気持ちをすごく感じて、みんな持ち帰っていました。

みんなで参加できる開会式・閉会式にしてほしい

国枝
大日方さんは開会式・閉会式でこんな演出があったらいいなとかお考えありますか。

大日方
大きな話ですと、オリンピックとパラリンピックの開会式・閉会式の4つ式典をブリッジさせて、全て見ると壮大なストーリーになっていたり、メッセージが浮かび上がったりというようなことができるといいなと思っています。演出というところですと、入場行進の時に、先導の方が国名の入ったプラカードを必ず持っていると思うのですが、もう少し工夫できたらいいのにと思っています。先導の方というと女性という印象があるのですが、例えば、オリンピックの入場行進の時にこそ、車いすユーザーや視覚障がいの方が先導するなど、いろいろな方がいるという形がとれたらいなと思っています。あと、子供たちにも開会式・閉会式に参加してほしいと思っています。ただ、観る側として招待する方がいいのか、実際に出演してもらうのがいいのかがいいのは悩ましいです。

国枝
ジュニアの子たちにも、開会式・閉会式に携わって欲しいですが、演出に参加してもらうというのは大変かもしれないですね。ただ、2020年は東京での開催なので、パラリンピックを目指している子ども達を集めて、何かするということも出来そうなので、そういう試みは面白いかもしれないですね。

大日方
そうですね。みんなが参加できて、「色々大変だったけれど、私たちがあの2020年の大会を作ったんだよ」と、あとで笑顔で話せる人が一人でも二人でも増えるような開会式・閉会式になったらいいですね。それでは、最後に国枝さんから、選手として東京2020大会に向けた抱負を一言お願いできますでしょうか。

国枝
開会式・閉会式だけではなく、自分の競技も含めて、素晴らしい東京パラリンピックにしていきたいなという気持ちです。2020年、僕のプレーを観に来て欲しいですね。

プロフィール

国枝 慎吾 1984年2月21日生まれ プロ車いすテニスプレイヤー。
グランドスラム車いす部門で、男子世界歴代最多となる計46回(シングルス24回・ダブルス22回)優勝の記録保持者。シングルスでは年間グランドスラム(3冠)を計5回達成し、ダブルスではキャリアグランドスラムと4大会連続優勝を果たしている。パラリンピックには2004年アテネ大会から4大会連続出場を果たしており、シングルスで2個・ダブルスで1個の金メダルと2個の銅メダルを獲得している。

大日方 邦子 1972年4月16日生まれ 東京2020組織委員会東京2020有識者懇談会委員、一般社団法人日本パラリンピアンズ協会(PAJ)副会長。
3歳の時に交通事故により負傷。高校2年生の時にチェアスキーに出会い、スキーヤーとして歩み始める。パラリンピックにはリレハンメル1994大会から5大会連続出場を果たしており、アルペンスキー競技で合計10個のメダル(金2個、銀3個、銅5個)を獲得している。長野1998大会では、日本人初の冬季パラリンピックにおける金メダリストとなった。