「開会式・閉会式」インタビュー vol.06

プロ車いすテニスプレイヤーの夏木マリさんと、東京2020有識者懇談会委員の大日方邦子さん

今回は、東京2020組織委員会顧問の夏木マリさんと、東京2020組織委員会東京2020有識者懇談会委員の大日方邦子さんにお話を伺いました。

大日方邦子さん(以下、大日方)
2020年のオリンピック・パラリンピックはどんな大会になればいいと思いますか?

夏木マリさん(以下、夏木)
1964年の東京で、パラリンピックという名前で初めて大会が行われたということもあり、2020年はパラリンピックにフォーカスする大会になって欲しいと思っています。日本は海外に比べると、障がい者に対する認識がまだまだ低いと感じます。私の母の話になりますが、年をとってきて車いすに乗っているのですが、飛行機に乗る時などに非常に不便を感じます。こういう時に、日本は先進国と言われていますが、こういう面ではまだまだ途上国であるなと思うことがあります。2020年はいい機会だと思うので、東京オリンピック・パラリンピックではなく、東京パラリンピック・オリンピックとパラリンピックを先にやるぐらいの気持ちで、皆さんにパラリンピックに注目していただくのはいかがでしょうか。

大日方
皆さんにパラリンピックに関心を持ってもらえるということは、とてもありがたいことだと思っています。2020年大会を招致する際も、オリンピックだけではなく、オリンピック・パラリンピックの両方を呼ぶのだ、とおっしゃる方がこれまでよりもずっと多く、皆さんにパラリンピックに関心を寄せて頂いているのだなと感じました。実際にはパラリンピックをオリンピックの前に開催するのは難しいと思うのですが、私は是非、オリンピックの開会式からパラリンピックの閉会式までがずっと繋がっていて、ひとつの「東京2020大会」という大きなスポーツ大会になればいいなと思っています。

夏木
そうですね。毎回どの大会を見ていても、オリンピックが終わるとそれで終わりという感じがします。オリンピックとパラリンピックとの間に約2週間という期間もありますし、テレビなどを見ていても、パラリンピックはオリンピックに比べると世の中が盛り上がっていないなと感じますね。

インタビュー中の夏木さん

大日方
パラリンピックは一部分だけテレビ中継をして、それを興味がある人だけがちょっと見て、世の中でちょっとだけ話題になるということが多いのですが、東京2020大会はそうでない大会にしたいですね。

夏木
賛成です。

アスリートの肉体を余すことなくアピールできる開会式のユニフォームを考えてほしい

大日方
今までのオリンピック・パラリンピックの開会式・閉会式で印象に残っていることはありますか。

夏木
いつも開会式を見る度に、日本の開会式のユニフォームは、選手たちがカッコよく見えないものが多いなと感じます。選手たちは鍛えられたとても綺麗な肉体をしているので、選手が着る開会式のユニフォームはその肉体を余すことなくアピールできるものがいいのではないかと思います。また色の配色も、いつも赤と白の組み合わせで、他に発想がないのかなと思います。大日方さんは、開会式・閉会式に多く出られていますが、開会式のユニフォームのデザインに関して何か感じられたことありますか。

大日方
日本選手団は、いつもではないのですが、オリンピックとパラリンピックの開会式で別のユニフォームで行進することが多く、別の競技大会のような印象になってしまうので、統一感が欲しいと感じています。海外ですと、オリンピックとパラリンピックの選手が開会式で同じユニフォームを着ていることは珍しくないです。あと、夏木さんがおっしゃられる通り、海外の開会式のユニフォームを見ていると、アスリートがアスリートらしくカッコよくみえるデザインが多いですね。

夏木
開会式の演出などにもよると思うのですが、例えば、体が冷えるとかそういうこともリサーチしたうえで問題がないようであれば、浴衣を開会式のユニフォームにして、めくれると鍛えた肉体が見えるとか、その様なことを考えて欲しいです。浴衣は、日本の伝統工芸のひとつとして取り扱うこともできますし、東京お江戸の絢爛豪華な色彩の伝統ということもアピールできると思います。

大日方
そうですね、見ていて楽しくなるような色を効果的に使えるといいですよね。過去大会の例になるのですが、色々な色に光るペンライトを配ったり、きれいな色の簡単なポンチョを配ったりしていました。私は、開会式・閉会式で、選手にとって気の利いた小物が配られて、それに色々な色が大胆に使われているというのがいいのかなと思いますね。それに伝統が何か絡むと更にいいものになるのではないかと思います。

インタビュー中の大日方さん

開会式・閉会式で、日本人の礼儀正しさ、日本の四季の美しさなどをアピールできたら

夏木
開会式・閉会式は選手にとってどの様な場所なのですか。

大日方
開会式は、選手たちにとってモチベーションを上げるために、ものすごく重要な場所だと思います。翌日が試合の選手だと参加するのが難しい場合や、参加する選手の負担を減らすために拘束する時間を減らすなど課題はありますが、参加できない選手も選手村でテレビを通じて見るなど、参加したいという選手は非常に多いです。閉会式は、やり遂げたというある種のリラックスした気持ちを持って、海外選手と交流したり、楽しんだりとするような場所だと思います。

夏木
開会式・閉会式にはどれぐらいの選手が出られるのですか。

大日方
国によっても違うのですが、開会式ですと、オリンピックとパラリンピックで比べるとやはりパラリンピックの方が少ないです。閉会式に関しては、パラリンピックの方が開催期間が短いので、最後まで残る選手はオリンピックよりは多いと思います。オリンピックの場合は、期間が長いこともあり、本当は最後まで居たいけれども帰らなくてはいけないということがあるようです。ただ、2020年は日本で開催する大会なので、日本の選手団は閉会式にも参加することが出来ると思います。

夏木
そうすると、その場にリアルにいなくても、SNSとか何かテクノロジーを使って、どこにいても開会式・閉会式が見られるようになるということが出来るといいですね。また、その場にいる人と、そこにはいない人とをテクノロジーでうまく融合して何かができる開会式・閉会式になれば素晴らしいのではないかと思います。

大日方
世界中がつながっていって、色々な場所で同じことが行われ、コラージュみたいな感じで開会式・閉会式の中で表現されると素敵ですよね。夏木さんは、海外でパフォーマンスされる際に気を付けられていることはありますか。

夏木
私の場合は和洋折衷なパフォーマンスを行うことが多いのですが、海外でパフォーマンスするときは日本の美しさが要求されます。海外の方は、日本にすごく興味があるので、伝統芸能もそうですが、海外から見て埋もれている素敵な日本というものを掘り起こしていくというストーリーがあってもいいのではと思っています。

大日方
なるほど、私がそういう面で日本の良さではないかなと思うのは、屋台が出てお神輿を担いでみんなで楽しむお祭りです。地元のお祭りが神輿を担ぐものなのですが、海外の観光客の方にすごく人気で、法被を着て担ぎたいという人は、日本人よりも多いみたいです。こういうお祭りの楽しさが、開会式・閉会式のどこかで表現できるといいなと思います。

夏木
ブラジルだったらリオのカーニバル、イタリアだとベネチアの仮面カーニバルというように、その国を代表するお祭りってありますよね。日本も、各地に「阿波踊り」「ねぶた」「よさこい」など郷土のお祭りがあるので、そういう伝統文化をアピールできるといいですよね。

大日方
そうですね、開会式・閉会式は小難しいものを見たいわけではないので、美しくて、楽しいものになって欲しいです。また、オリンピックとパラリンピックの4つの式典がバラバラではなく、ストーリーとしてつながっていて、全て見たら「そうだったんだ」というようにタネ明かしされるようなものが出来たらなと思っています。例えば、スター・ウォーズの様に、後からエピソード1、2というような昔の話が出てきて、実は全て繋がっているんだというような面白い仕掛けや、見ていてわくわくするものが出来て、パラリンピックの閉会式まで皆さんが関心を持ち続けてくれるようなものが出来たらと思います。

夏木
そのためには、オリンピックからパラリンピックまで一人の演出家が総合プロデュースした方がいいですね。

大日方
夏木さんは、日本・東京のどの様な魅力を開会式・閉会式で、アピールできたらと思いますか。

夏木
日本は安全であるということ、あと礼儀正しさを含めて人と接することが出来るということがあると思います。それから、四季の変化とそれぞれの美しさがあると思います。あとは、電車が絶対に遅れないなど、時間の正確さもありますね。ただ一方で、今ではマンガはありますが、他のアートとかカルチャーとかは海外よりも日本は少々意識が低いような気がします。東京2020大会の後、観光立国にならないといけないことを考えますと、開会式・閉会式、オリンピック・パラリンピック期間中含めて、こういう部分の日本の素晴らしさをアピールできたらと思っています。

インタビュー中の夏木さんと、大日方さん

開会式・閉会式では、思いやりや愛など、人を感じられる演出をして欲しい

大日方
どの様な開会式・閉会式になって欲しいですか。

夏木
参加する選手も、見に来てくださる方もウキウキするような開会式・閉会式になって欲しいですね。人への思いやりや優しさ、やっぱり愛を感じたいですね。テクノロジーなど先進的なものを使ったとしても、最後は手作り、人を感じられる演出になって欲しいです。

大日方
そうですよね。無機質になりすぎずに、人と人とがつながりあって、お互い目と目とが合った時に、笑い合えるかどうかが重要だと思います。

夏木
古い言い方で申し訳ありませんが、チケットもぎりの方やボランティアの方たち含めて、全員が笑顔でいられるということが、大事なことだと思います。表は素敵だけど、裏では実はギスギスしているのは嫌ですよね。ボランティアの方も「やってよかったな」と心からみんなが参加できる、そんなオリンピック・パラリンピックになれば、みんなハッピーだと思います。

大日方
開会式・閉会式でどのようなことを表現できればいいと思われますか。

夏木
今はテクノロジーも進歩していて、いくらでも凄いことは出来ると思います。だからこそ、作る人のセンスにかかってくると思いますので、私は演出家は外国から呼んできた方がいいと思います。テクノロジーに特化している人はいるけど、才能が分散されていると思います。それをまとめる天才的な演出家の方は思いつかないんです。

大日方
私は、日本の「しなやかさ」というものが表現できればと思っています。日本は、その時代時代で良いものを取り入れながら変わり続けるという柔軟性・対応力があったと思うのですが、その一方で「日本らしさを維持する」という強さ・芯も持っていると思います。これはアスリートとも共通する部分もあると思うので、芯の強さとしなやかさを表現できたらいいなと思うのですが、夏木さんならどの様に表現されますか。

夏木
難しいですね。選手の皆さんは時間を使って前に進んでいらっしゃるので、自分に誇りをお持ちだと思います。日本人ってプレゼントを渡す時も「つまらないものですが」と遜る文化だと思うのですが、芯の強さを表現するためには、「これ、私の好きなものだから」という渡し方のように、自分に誇りを持って表現するという創り方になるかと思います。

大日方
2020年にかかわった人が、私たちが一生懸命やって良い大会になったね、こんな素晴らしい大会が日本で出来たことを誇りに思うんだ、ってみんなが言えるような大会になるといいですよね。

夏木
そのためには、東京オリンピック・パラリンピックは、沖縄から北海道まで全国の人が日本のオリンピック・パラリンピックだと思って、日本全国のいいものをプレゼンテーションできるような開会式・閉会式にするのがいいと思います。大日方さんは、講演会などで地方にも行かれていると思いますが、東京オリンピック・パラリンピックに対する地方の期待感というものはどうですか。

大日方
東京にいると、あと3年かと近づいている気がしますけど、地方に行くと、まだまだ遠い先の話だと思われている方もいるなと感じます。また「東京のことだから」と言われることもあり、寂しい気持ちになるので、日本のオリンピック・パラリンピックにするために、参加感を高めていくことが重要だと感じています。マスコットは日本中の小学校で投票を行いますが、そういうムーブメントを広げて盛り上がっていき、みんなで一緒に作るのだというようになればいいと思います。また、東京が何か用意するのではなく、地方の方たちがどうやって参加するのかというところも含めて、仕組み作りから参加することができるようになると面白いのではないかと思います。 それでは最後になりましたが、一言お願いできますでしょうか。

夏木
私は、演出家のお名前を早く聞きたいです。そして日本が独自のアートの部分やカルチャーを釣り上げて頂いて、思い切った日本のプレゼンテーションを期待したいです。

プロフィール

夏木 マリ 5月2日生まれ 東京2020組織委員会顧問、歌手、俳優、演出家。
1973年デビュー。1980年代から演劇にも活動の場を広げ、芸術選奨文部大臣新人賞などを受賞。1993年から全てのクリエイションを手掛ける舞台、コンセプチュアルアートシアター「印象派」で身体能力を極めた芸術表現を確立。2009年パフォーマンス集団MNT(マリナツキテロワール)を立上げ主宰。ワークショップを通じて後進の指導にも力を入れ、その功績に対しモンブラン国際文化賞を受章。同年、バラと音楽の支援活動「One of Loveプロジェクト」を設立。2018年春、主演映画「生きる街」公開予定。

大日方 邦子 1972年4月16日生まれ 東京2020組織委員会東京2020有識者懇談会委員、一般社団法人日本パラリンピアンズ協会(PAJ)副会長。
3歳の時に交通事故により負傷。高校2年生の時にチェアスキーに出会い、スキーヤーとして歩み始める。パラリンピックにはリレハンメル1994大会から5大会連続出場を果たしており、アルペンスキー競技で合計10個のメダル(金2個、銀3個、銅5個)を獲得している。長野1998大会では、日本人初の冬季パラリンピックにおける金メダリストとなった。