パラ陸上競技

パラ陸上競技

パラ陸上競技のピクトグラム

パラリンピック競技

パラ陸上競技

  • トラック
  • フィールド
  • ロード

1秒でも速く。
義肢やコーラーとひとつになり、己の能力を引き出した選手たちが駆け抜ける。

競技概要

パラリンピックの陸上競技は、第1回ローマ1960大会から正式競技として実施されている。幅広い障がいを対象とすることもあり、夏季大会の競技の中で参加人数は最も多い。
オリンピックとは異なる大きな特徴は、クラス分け(※)と呼ばれる制度で、対象とする障がいが視覚障がいや知的障がいから、麻痺や四肢の欠損など多岐にわたるため、極力条件を揃え、公平にレースが行えるようにしている。各選手を障がいの種類や程度、運動機能などに応じてクラス分けし、レースはクラスごと、あるいは隣り合うクラスを合わせた統合クラス(コンバインド)で行われる。
トラック競技としては短距離から中・長距離、リレー種目(4x100m、4x400m)などが実施されてきたが、実施種目やクラスは参加選手数などに応じて大会ごとに検討されるため、固定されていない。
競技ルールはオリンピックとほぼ同じだが、障がいの内容や種目の特性などに合わせ、一部のルールが変更されている。障がいを補いながら、選手はコンマ1秒を削るべく己の限界に挑む。

(※クラス分け)

クラス 障がい種別
T/F11
T/F12
T/F13
視覚障がい 重い↑軽い
T/F20 知的障がい
T/F31
T/F32
T/F33
T/F34
脳性まひ(車いす) 重い↑軽い
T/F35
T/F36
T/F37
T/F38
脳性まひ(立位) 重い↑軽い
T/F40
T/F41
低身長症 重い↑軽い
クラス 障がい種別
T/F42
T/F43
T/F44
下肢切断 重い↑軽い
T/F45
T/F46
T47
上肢切断 重い↑軽い
T/F51
T/F52
T/F53
T/F54
F55
F56
F57
脳性まひ以外の車いす
(頸髄損傷、脊髄損傷、切断、機能障がい)
重い↑軽い

※ジャパンパラ競技大会におけるクラス分け表をもとに、国際大会基準で作成した表。

ESSENCE OF THE SPORT/競技の魅力、見どころを紹介!

100m走の金メダリストが30人!? クラスごとに繰り広げられる戦い

トラック競技の写真1

クラス分けは公平に競技を行うための工夫だが、各選手のクラスは専門の資格を持つ判定員が医学的、運動機能的な側面から審査して決める。トラック競技のクラスはアルファベットのTと2桁の数字の組み合わせで表記される。数字は10の位が障がいの種類を、1の位は障がいの程度を表し、1の位の数字が小さいほど障がいの程度が重いことを意味する。

競技ルールはオリンピックと同じルールを基本に、障がいの内容や種目の特性に応じて一部のルールが変更されている。例えば、視覚障がいクラスではT11(全盲など)の選手全員 とT12(弱視) の一部の選手(伴走者と走るか単独走か選べる)は、目の代わりとなり、視覚から得られる情報を補う伴走者(ガイドランナー)とロープを握り合うなどして並んで走る。ガイドランナーは選手の安全を第一に、コース状況やタイム、周囲の様子などを言葉で伝え、フィニッシュラインへと導く。ただし、選手を先導したり、フィニッシュラインを選手より先に越したりすると失格となる。

肢体不自由のクラスで、四肢に欠損がある選手は左右バランスを取ることを目的に、競技用の義肢を使用できる。特に義足は近年、素材や形状などの研究・開発が進んでおり、ルールの範囲内で選手は自身の障がいに合わせて調整も可能だ。だが、義足は想像以上に固く、義足の反発力を競技力に活かすためには、選手自身に義足を十分にたわませ反発力を受けとめるだけの筋力や技量が必要だ。同じモデルの義足を使っていても、記録に差が見られるのはこうした点にも要因がある。

トラック競技の写真2

車いすクラスは、レーサーと呼ばれる高速走行用に開発された競技用車いすを使用する。少なくとも3つの車輪があるが、風よけやギアなどは装着できず、選手は腕力など上半身の力だけで操作する。ルールの範囲内で自身の障がいや体格に合わせて各パーツをカスタマイズできる。軽量性などレーサーの性能は年々向上しているが、座席の高さや車輪を漕ぐための部品のサイズなどを自分仕様にするプロセスが欠かせない。自身の力を最も効率よく車輪に伝えられるよう、様々なパーツをミリ単位で微調整し、トライアンドエラーを繰り返しながら最適なポジションやセッティングを探ることも記録向上には欠かせない地道なプロセスだ。

オリンピックに比べると実施される種目は少ないが、クラス別に競技するため1種目の決勝レースの数が多いのが特徴だ。その代表種目が100m走で、リオ2016大会では男子16クラス、女子14クラスの決勝レースがそれぞれ行われ、全部で30人の100m金メダリストが誕生した。

OUTLOOK FOR THE TOKYO 2020 GAMES/2020年に向けた競技の展望

年々上がる競技力 人間の可能性はどれほどあるのか?

トラック競技の写真3

パラリンピックの規模が拡大するにつれ、陸上競技の参加国や選手も増え、それに伴い競技レベルや記録も急速に向上している。リオ2016大会では陸上競技だけで約70の世界新記録が誕生した。
トラック競技では、近年は中国が圧倒的な強さを誇り、リオ2016大会のメダルランキングではアメリカ、イギリスが続いた。他にも、特に短距離走で強さを見せたブラジルや、車いすクラスに注力して強化を進めるタイ、中長距離走でのケニアなどの活躍も目立った。

1人で複数の距離に挑む選手も少なくない。例えば、女子T54のタチアナ・マクファーデン(アメリカ)は、リオ2016大会では車いすのトラック5種目(100m、400m、800m、1500m、5000m)とマラソンで金4個、銀2個を獲得。男子T54のマルセル・フグ(スイス)も800mとマラソンで2冠に輝いている。
車いすクラスでは競技用車いす(レーサー)の性能も向上しているが、最高性能の車いすを、どれだけ自分にフィットさせ駆使できるかが、車いす種目の記録更新には欠かせない。

視覚障がいクラスのトラック種目では、T11の選手全員とT 12の一部の選手は伴走者(ガイドランナー)と並んで走るため、1選手につき2レーンが与えられる。そのため、決勝には予選レースを通過した4選手しか出場できず、4人で3つのメダルを競う。ガイドランナーの力量も問われる種目であり、短距離種目では選手とともに磨き上げ、スタートからフィニッシュまでピタリと同調した走りも見どころだ。

知的障がいクラスは障がいの程度によるクラス分けはなくT20のみだが、選手により障がいの特性が異なるのが特徴だ。オリンピックとほぼ同じルールで行われ、単独で競技を行う。ペース配分や他選手との駆け引きなどは練習を繰り返して身につけ、レースで発揮することが重要だ。近年、記録の伸びが顕著なクラスの一つでもある。

走ることはスポーツの基本でもあり、どのクラスも新しい選手の参加が増えている。2020年に向けて新星が現れる可能性が高い。

<日本>
トラック種目では、日本はこれまで、高田稔浩(T52)や伊藤智也(T52)、土田和歌子(T54)などが車いすクラスで多くの金メダルを獲得している。視覚障がいクラスは、ロンドン2012大会のT11男子5000mで和田伸也が獲得した銅メダルが現在では唯一のメダルだ。切断・機能障がいクラスではリオ2016大会の4x100mリレー(男子)およびT47女子400mで辻沙絵がともに銅メダルを獲得している。どのクラスも新たに若手選手の台頭がみられ、東京2020大会での活躍が期待されている。

TRIVIA/知られざる競技のヒミツ

Question

立位の選手のフィニッシュはオリンピックと同様に、胴体がフィニッシュラインに到達した瞬間を計測する。では、車いす選手の場合はどの瞬間?

Answer

A:前方の車輪の車軸の中心がフィニッシュラインに到達した順番で決められる。
ちなみにスタートでは、車輪の前輪はスタートライン手前の地面に接触していなければならない。

より高く、より遠く。
磨き上げた独自のスタイルで、それぞれのベストを目指す。

競技概要

パラリンピック陸上競技の大きな特徴は、クラス分け(※)という制度があることだ。障がいは選手により異なるため、極力条件を揃えて公平に競えるようにするため、それぞれの障がいの種類や程度、運動機能などにより選手をクラスに分け、クラスごと、あるいは近いクラスを合わせた統合クラス(コンバインド)で競技を行う。
フィールドで行われるのは跳躍と投てき。跳躍競技には走高跳、走幅跳、三段跳があり、投てき競技には砲丸投、やり投、円盤投に加え、パラリンピック独自の種目、こん棒投がある。ただし、実施される種目やクラスは大会ごとに検討され、決められる。
ルールはオリンピックの陸上競技とほぼ同じだが、障がいクラスに応じて一部のルールが変更されている。障がいを補いながら、1センチメートルでも高く、遠くへと、自己の限界に挑む。

(※クラス分け)

クラス 障がい種別
T/F11
T/F12
T/F13
視覚障がい 重い↑軽い
T/F20 知的障がい
T/F31
T/F32
T/F33
T/F34
脳性まひ(車いす) 重い↑軽い
T/F35
T/F36
T/F37
T/F38
脳性まひ(立位) 重い↑軽い
T/F40
T/F41
低身長症 重い↑軽い
クラス 障がい種別
T/F42
T/F43
T/F44
下肢切断 重い↑軽い
T/F45
T/F46
T47
上肢切断 重い↑軽い
T/F51
T/F52
T/F53
T/F54
F55
F56
F57
脳性まひ以外の車いす
(頸髄損傷、脊髄損傷、切断、機能障がい)
重い↑軽い

※ジャパンパラ競技大会におけるクラス分け表をもとに、国際大会基準で作成した表。

ESSENCE OF THE SPORT/競技の魅力、見どころを紹介!

用具やアシスタントとのコンビネーションは勝利への重要なポイント

跳躍競技の写真

跳躍
対象となる障がいクラスは、車いすクラスを除いた全クラスになるが、実施種目とクラスは大会ごとに異なる。障がいクラスはアルファベットのTと障がいの種類と程度を表す2桁の数字で表される。

視覚障がい(T11/12)の選手は目からの情報を補うアシスタントと競技を行うことが認められている。選手を助走開始地点や競技エリアまでエスコートし、助走の方向を教えるガイドと、競技中に助走の方向や踏切地点などを手拍子や声で伝えるコーラーを伴うことができる。T11クラスは2つの役割を2人で担当しても1人で兼務してもよい。競技に支障がなくルールの範囲内なら、声かけの方法やコーラーが立つ位置などは自由だ。走幅跳では、踏切板ではなく少し幅の広い踏切エリアが設けられているのも特徴だ。

T11(全盲など)の選手のみ、見え方の違いによる公平性を保つためアイマスク着用が義務付けられている。暗闇の中でコーラーの発する音声だけが頼りになる。声のする方へ、助走路をできるだけ真っ直ぐに思い切り走り、「ここ」と信じる位置で踏み切り、空中へ跳び出す。恐怖に打ち克つ勇気を得るには日々の練習で互いの信頼関係を高めるプロセスが欠かせない。手をたたき続ける、歩数に合わせた数を数えるなど、それぞれの方法を見比べるのも面白い。

切断・機能障がいクラスでは左右のバランスをとるため、競技用の義足や義手を使用する選手も多いが、実はトラック競技と異なり、跳躍競技では義足の着用義務はなく、ホッピング(片足跳び)も認められている。選手は自身の力を最大限に発揮できる競技方法を探り、より高みを目指す。

投てき
全ての障がいクラスが対象となり、アルファベットのFと障がいの種類と程度を示す2桁の数字で表される。視覚障がいクラスではF11、12クラスの選手はガイドとコーラーを伴えるが、兼務することが条件となる。跳躍競技同様、投てきサークルに選手を導き、手拍子や声かけで投げる方向を知らせる。

車いすクラスの選手も対象だが、投てき台と呼ばれる道具を用いて競技する。
投てきの際、脚やお尻が浮かないよう体をベルトなどで固定でき、安定した投てきが可能になる。つまり、助走などはできず、座ったまま上半身の力だけで投げることになる。選手はルールの範囲内でカスタマイズした自分専用の台を使うこともできる。

投てき競技の中にはパラリンピック独自のこん棒投という種目もある。車いすクラスの中でも障がいが重度であり、手にも障がいのある選手を対象とし、ボウリングのピンに似た長さ約40センチメートル、重さ397グラムのこん棒を投げて距離を競う。投げ方に制限はなく、後ろ向きに投げることも認められている。

また、知的障がいクラスは障がいの程度によるクラス分けはなく、TまたはF20の1クラスのみだが、個々の選手で障がいの特性が大きく異なるのが特徴だ。

OUTLOOK FOR THE TOKYO 2020 GAMES/2020年に向けた競技の展望

大会ごとに伸びが著しい オリンピックに迫ることも

表彰の様子

障がいクラスごとに工夫された用具やアシスタントとのチームワークなどを活用し、選手がどうパフォーマンスするかが見どころだ。また、トレーニング方法の向上や用具の性能などの進化により、パフォーマンスのレベルや記録が急速に伸びている。

近年、世界的に大きな注目を集めているのが、義足アスリートのマルクス・レーム(ドイツ)だ。14歳の時、事故で右脚の膝から下を失うも、義足を履いて陸上競技を始めると、特に走幅跳で才能を開花。ロンドン2012大会ではT44クラス(片膝下切断など)で7メートル35を記録し金メダルを獲得。その後、ドイツ国内の大会で健常者と共に戦って優勝し、2015年にはIPC陸上競技世界選手権で同クラスの世界最高となる8メートル40をマーク。この記録が、同年に北京で行われた健常者の世界陸上選手権優勝記録(8メートル41)にあと1センチメートルと迫る好記録だった。東京2020大会での記録更新にも期待がかかる。

レームのクラスより少し重度で、片大腿切断などのT42 クラスの走幅跳も面白い。2016年はハインリッヒ・ポポフ(ドイツ)、ダニエル・ワグナー(デンマーク)と、山本篤(日本)のトップ3選手によるハイレベルな試合が続き、世界記録が5回も塗り替えられた。リオ2016大会は世界記録(6メートル77)をもつポポフが6メートル70を跳んで制したが、2017年夏のIPC陸上競技世界選手権での引退を表明しており、東京2020大会のメダルの行方が興味深い。

投てき競技でも記録更新が多く、また、1人で複数種目の世界王者となる選手が多いのも特徴といえる。先天性下肢機能障がいのアレッド・デイビス(イギリス)は、ロンドン2012大会では男子F42クラス円盤投で、リオ2016大会では同クラス砲丸投で金メダルを獲得。女子ではF41の砲丸投と円盤投で、F32砲丸投とこん棒投で、それぞれチュニジアの選手が2冠を達成。リオ2016大会の投てき競技では14個の金メダルを中国が獲得しているのも特筆すべき点だ。

<日本>
切断・機能障がいクラス(T42-47)の走幅跳は、日本の新たなお家芸といえる。北京2008大会で2位に入り、日本人義足アスリートとして初のパラリンピックメダリストとなり、リオ大会でも銀メダルを獲得した山本篤を筆頭に、男女ともに東京2020大会での表彰台を狙う選手が多い。また、フィールド競技では息長く活躍する鉄人も多い。走り高跳びの鈴木徹(T44)はシドニー2000大会で日本人初の義足のパラリンピアンとなって以降、リオ2016大会まで5大会連続出場。投てき選手の大井利江(F53)は、リオ2016大会で陸上競技の全選手中最年長(68歳)で4大会連続出場を果たした。2人とも、東京2020大会でのメダル獲得に向け、さらなる飛躍を誓っている。

TRIVIA/知られざる競技のヒミツ

Question

義足を装着して競技する選手が走幅跳の競技中、義足が脱落した場合はその試技は有効か、無効か?

Answer

A:現行のルールでは、跳躍中に脱落した場合は、その義足が落ちた地点(跡)から計測される。
ただし、砂場の手前や砂場の外に落下した場合は無効試技となる。また、助走中に脱落した場合は、制限時間内であれば、義足を装着し直し、再度助走を始めることができる。

レーサーやガイドと力を合わせ、限界まで走りきる。
選手の数だけ生まれる、42.195kmのドラマとは。

競技概要

パラリンピック陸上競技の大きな特徴は、障がいの内容や程度、運動機能などによって選手がクラス分け(※)されていることだ。障がいは選手により異なるので、公平に競技ができるように極力条件を揃えるため、レースはクラスごと、あるいは隣り合うクラスを合わせた統合クラス(コンバインド)で実施される。ロード競技であるマラソンの障がいクラスの表示はアルファベットのTと障がいの種類と程度を表す2桁の数字(T11など)で表される。
マラソンは1984年のストーク・マンデビル&ニューヨーク大会からおこなわれている。ただし、実施されるクラスは参加者数などを考慮しながら、大会ごとに検討されている。例えば、リオ2016大会では、男女視覚障がい(T12)、男子上肢障がい(T46)、男女車いす(T53/54)が実施された。
パラリンピックのマラソンのルールはオリンピックとほぼ同じだが、視覚障がいクラスは選手の必要に応じて伴走者(ガイドランナー)と走ったり、車いすクラスの選手は競技用の車いす(レーサー)を使用したりすることが認められている。体の一部ともいえる伴走者や用具との一体感もパフォーマンスを左右する重要な要素になる。

(※クラス分け)

クラス 障がい種別
T/F11
T/F12
T/F13
視覚障がい 重い↑軽い
T/F20 知的障がい
T/F31
T/F32
T/F33
T/F34
脳性まひ(車いす) 重い↑軽い
T/F35
T/F36
T/F37
T/F38
脳性まひ(立位) 重い↑軽い
T/F40
T/F41
低身長症 重い↑軽い
クラス 障がい種別
T/F42
T/F43
T/F44
下肢切断 重い↑軽い
T/F45
T/F46
T47
上肢切断 重い↑軽い
T/F51
T/F52
T/F53
T/F54
F55
F56
F57
脳性まひ以外の車いす
(頸髄損傷、脊髄損傷、切断、機能障がい)
重い↑軽い

※ジャパンパラ競技大会におけるクラス分け表をもとに、国際大会基準で作成した表。

ESSENCE OF THE SPORT/競技の魅力、見どころを紹介!

気象や路面、起伏などと戦い 42.195kmを駆け抜ける

ガイドランナーとともに走る選手

他の種目同様、マラソンにおいても複数のクラスが実施されるため、順位はクラスごとに決められる。なお、実施されるクラスは大会ごとに検討され、リオ2016大会では初めて視覚障がいクラスの女子が採用された。

ここでは、リオ2016大会での実施クラスを例に挙げ、レースの見どころを紹介する。視覚障がいクラスはT11とT12クラスのコンバインドで実施された。T11(全盲など)の選手は必ず、目の代わりとなって視覚から得られる情報を補い、安全に導く伴走者(ガイドランナー)と走らなければならず、T12の選手は単独走か、伴走者と走るかが選択できる。そのため、レースには単独走の選手と伴走者とのペアの選手が混在する。ペアで走る選手は伴走者とロープを握り合うなどして並んで走るので、フォームを合わせるなどコンビネーションを磨くことが大切だ。選手より先に伴走者がフィニッシュラインを越すと失格となるなど、伴走者はあくまでも選手のパフォーマンスをリードではなく、サポートする存在でなければならない。現行のルールでは2人の伴走者が認められており、コース上の決められた地点で交代できる。選手は、コースの凸凹や起伏、曲がり角など、緊張感をもちながら走っている。

マラソンは気象条件も大きな要素で、気温や湿度が高い場合は完走率も低くなる。参加人数の関係で、集団でなく、単独で走ることも少なくない。過酷な条件の中、1人でペースを守り、レースをつくる精神的な強さも必要になる。

一般道路もコースとなることから、坂道などの起伏や曲がり角の数などがタイムに与える影響も大きい。また、路面状況も注意が必要で、例えば、石畳のように細かな起伏が続く路面は、視覚障がいの選手にはつまずきや転倒、車いすの選手にはレーサーのパンクなどの危険性も高い。また、急な曲がり角などで転倒する車いすの選手も少なくない。

麻痺や切断など上肢に障がいがあるクラス(T45/T46)の選手は、腕の振りのバランスが重要となる。給水コップやスポンジの取り方などもそれぞれ工夫しながら、フィニッシュラインを目指す。

車いすのT53/54クラスは、少なくとも3つの車輪があり高速走行用に開発された競技用車いす(レーサー)で競技を行わなければならず、それを腕だけで漕いで42.195キロメートルを走り抜く。レーサーの素材や性能は年々進化しているが、それを活かすには選手自身が筋力や技量を磨いたり、個々の障がいに合わせてルールの範囲内でレーサーをカスタマイズしたりするなど、使いこなすための努力が欠かせない。

OUTLOOK FOR THE TOKYO 2020 GAMES/2020年に向けた競技の展望

障がいごとに異なるみどころ 真夏の東京を制するのは?

車いす選手による競技の様子

視覚障がいクラス(T12男子)は近年、スペインやポルトガルなどのヨーロッパ勢と日本が有力と言われていたが、リオ2016大会を制したのはエル・アミン・シャントゥフ(モロッコ)。弱視だが単独で走る選手で、トラック競技でスピードを磨いたのち、マラソンにも挑戦。T12男子のマラソン世界最高記録(2017年5月時点)である2時間21分33秒も、シャントゥフが2015年のロンドンで行われたIPC世界陸上競技選手権でマークしたものだ。弱視で1キロメートルを3分21秒で走り抜く凄さを想像してほしい。東京2020大会ではシャントゥフが王座を守るのか、新星が現れるか、注目される。

上肢障がいクラス(T46男子)ではブラジルやスペイン、メキシコなどの出場が多いが、リオ2016大会を制したのは李朝燕(中国)だった。一方、T46男子の世界最高記録である2時間33分08秒は、ロンドン2012大会とリオ2016大会でともに銀メダルのアブデラマン・アイト・カモウチ(スペイン)がマークしている。東京2020大会では連覇を目指す左肘先欠損の李か、初制覇に挑む右上腕欠損のアイト・カモウチか、あるいは新たな選手の台頭がみられるか。

一方、車いすクラス(T54男子)の世界最高記録は1時間20分14秒。1キロメートルを1分54秒で疾走する速さを腕力だけで生み出している。平均時速30キロメートル、下り坂では時速50キロメートルに達することもあるスピード感は、レーサーならではの魅力だろう。風の抵抗を避けるため、自転車レースのように縦一列に並び集団で疾走するのも車いすレースの特徴の一つ。ペース維持のため先頭が交代する駆け引きも見応えがある。近年はラストスパート合戦で勝負が決することも多く、例えばリオ2016大会のT54女子は4位までが1秒差、7位まででも3秒差という接戦が展開された。男子はトラック競技でも強さを見せるマルセル・フグ(スイス)が初制覇。T54クラスは男女とも欧米勢を中心に有名選手が多く、東京2020大会での栄冠は誰が手にするか、目が離せない。

<日本>
パラリンピックのマラソンにおいて、日本は存在感を放ってきた。視覚障がいクラスではアトランタ1996大会で柳川春巳(T11)が、アテネ2004大会で高橋勇市(T11)が金メダル、リオ2016大会で岡村正広(T12)が銅、道下美里(T12)が銀を獲得。伝統と勢いを東京2020大会にもつなげたい。車いすクラスではアテネ2004大会、北京2008大会で高田稔浩(T52)や上与那原寛和(T52)、笹原廣喜(T54)、土田和歌子(T54)らがメダルを獲得したが、ロンドン2012大会とリオ2016大会では男女ともに表彰台を逃した。地元開催の東京2020大会で、巻き返しを狙う。

TRIVIA/知られざる競技のヒミツ

Question

マルセル・フグ(スイス)には、ある特徴的なニックネームがある。そのニックネームとは?

Answer

A:銀の弾丸(Silver Bullet)。
光り輝く銀色のヘルメットを愛用し、弾丸のようなスピードで疾駆する姿からこの名がついた。フグは、2016年の1年間で、前人未到のメジャーマラソン大会6連勝を果たしている。

競技会場

オリンピック競技一覧

パラリンピック競技一覧