室伏広治選手×国枝慎吾選手 トップアスリート対談!(第1回/全3回) 

アテネ五輪、大邱世界陸上で金メダル、モスクワ世界陸上でも6位入賞を果たし、38歳の今なお、日本のスポーツ界をけん引し続ける室伏広治(ミズノ)と、車椅子プロテニスプレーヤーで、メジャー大会26勝、パラリンピック3大会連続金メダル(単2、複1)を手にしてきた国枝慎吾(29=ユニクロ)、日本が世界に誇る2人のトップアスリートが初対談した。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催への意義を、2人ならでは視点で深く語り合う。

取材・構成 スポーツライター 増島みどり 
写真協力=陸上競技マガジン(ベースボール・マガジン社)


--トップアスリートには、勝利の方程式が邪魔になることもある--

国枝:ボクにとって室伏さんは、子どものときからのオリンピックのヒーローなんです。16歳だったシドニー五輪(2000年)の頃から注目していました。日本人がハンマー投げで世界のトップに立つなどあり得ないと思っていましたし、フィジカルだけではなく、全てにおいて強じんなアスリートでずっとあこがれの存在です。昨年のロンドン五輪を前にメディアで拝見した情報で、「赤ちゃんのハイハイトレーニング」など、ご自分でトレーニングを開拓していく様子を知り、その発想や独創性に驚かされました。

室伏:国枝さんこそ、長く実績を築き上げた「世界が認める」テニスプレーヤーですからね。あのフェデラー(ロジャー・フェデラー、スイス)が「国枝を尊敬している」と発言したことはもちろん存じ上げています。赤ちゃんトレーニングは、チェコのコラー博士が、生後4ヶ月程度の、まだ筋肉のない赤ちゃんが様々な姿勢を保てる理由を、身体の内側の「骨盤底筋」や「横隔膜」の働きにあると解明したものです。私も現地で勉強し、練習に取り入れてみたんです。

国枝:次々にアイディアが生まれるのはどうしてなのでしょう?

室伏:我々アスリートはもちろんチャンピオンになるため、国際大会でメダルを獲得するために競技を追求していますが、メダルをとって世界一になるまでと、目標通り世界一になれた後では、競技観そのものが大きく様変わりすると思うんです。頂点に立つまでと、連覇を目指すのでは方法論で明らかに別のものです。重要なのは、成功体験がむしろ成長の邪魔をすることなんです。ボクはそれにはこだわらない。

国枝:最近、何かを変えること、大胆な変化に取り組むことに臆病になっている自分がいました。世界一になった後は、どこか守りに入っていたので、改めて図星を突かれたように感じています。

室伏:よく言う「勝利の方程式」が、本当は何より怖い。記録が出た、メダルが取れたから、と勝利の方程式、という罠にはまってしまうこともある。目先の結果にこだわり過ぎるあまり、スポーツを楽しむ本質を忘れ、自分を自分で追い込んでしまう。

国枝:負けた試合を振り返ると、コーナーに打つべきショットを中央に集めて、リスクを負っていない。以前、3年に渡って108連勝したことがありましたが、勝つためにむしろ「守ろう」とする精神状態を感じました。まさに、成功体験が邪魔をする、と室伏さんがおっしゃっている状況です。自分にチャレンジしなくなる。

室伏:慣れたら、もはやトレーニングではありませんからね。でも国枝さんのトレーニング自体がそもそもオリジナルではありませんか?車椅子で強くボールを打つ正解は、教科書に載っていません。


(トップアスリート対談 第2回へつづく)
室伏広治選手と国枝慎吾選手

写真提供:陸上競技マガジン(ベースボールマガジン社)