東京2020アスリートビジット 鈴木徹選手・辻沙絵選手(パラ陸上競技)インタビュー(前編)「世界パラ陸上選手権大会ロンドン2017」

鈴木徹選手・辻沙絵選手

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020組織委員会)は、2017年8月29日、虎ノ門オフィスにパラ陸上競技の鈴木徹選手、辻沙絵選手をお迎えし、東京2020組織委員会職員と交流を深める「東京2020アスリートビジット」を開催しました。

両選手は今月行われた世界パラ陸上選手権大会ロンドン2017に出場しており、鈴木選手は走り高跳びT44クラスで2m01を、辻選手は400mT47クラスで1分00秒67をそれぞれ記録し、両選手ともに、見事銅メダルを獲得しました。

イベントの中で両選手にインタビューを行い、世界パラ陸上選手権大会ロンドン2017の激闘を振り返っていただき、また、パラスポーツの盛り上げや東京2020大会に期待することなどを伺いました。

マイクを持って語る鈴木選手

鈴木徹選手・辻沙絵選手インタビュー

世界パラ陸上選手権大会ロンドン2017について

両選手、メダル獲得おめでとうございます!まずは、世界パラ陸上選手権大会ロンドン2017を振り返って、率直な感想からお聞かせいただけますか?

鈴木 徹選手(以下、「鈴木」)
ロンドン2012大会に出場していたので、その会場でもう一度できるのはうれしかったですし、イギリスの方の見るマナーや観戦の仕方が非常に洗練されていて、会場のボルテージが上がる時は上がる、静かな時は静かにするといったように、観客の方が盛り上げどころをわかっているので、会場の一体感を感じられてとても楽しかったです。
そういったこともあって、競技の面では非常にリラックスできましたね。今までの大会は集中しようとしすぎていて固くなっていたんですが、今回は楽しく跳ぼうということを心がけていたこともあって、周りの選手に話しかけたりしてリラックスしていました。ヨーロッパの選手はみんな仲が良いのでみんなリラックスして話をしているんですよね。今回私はその中に入っていって、「どこで練習しているの?」とかを聞いたりして話をしていました。日本の選手ってみんな真面目ですね、「召集所(コールルーム)に入ると勝負は始まっている」という感じで。そういった意味では、今回違った感覚で臨めたのが良かったと思います。

世界パラ陸上選手権大会ロンドン2017 走り高跳びで銅メダルを獲得した鈴木徹選手

辻 沙絵選手(以下、「辻」)
私は、鈴木選手とは対照的なんですけども、苦しい大会でした。リオ2016大会が終わって多くのメディアに出させていただいて楽しい経験、いい経験もできていろいろな人にも出会えたんですが、その分練習量が減ってしまいました。リオ2016大会後、もっと早くなりたい、と思って帰国3日目から練習を始めたんですが、取材が入ると練習が継続できなくなってしまってその分タイムも落ちていきました。そんなフラストレーションが溜まっていく中で怪我もしてしまって、実戦も一度ぐらいしかこなせられない不安な気持ちで過ごした1年を経て迎えた大会でした。だから、メダルよりも、自分のやってきたことを置いてこられるか不安で、とても苦しかったです。

他に出場した種目の100メートルと200メートルは楽しく走れたんですけど、その2種目が終わった瞬間にリオ2016大会でメダルを取った400メートルが残って、この種目はメダル取るんでしょ、といった周りの期待から、試合に行くのも怖くなりました。しかも、前日に自分が走るレーンがわかるんですけど、苦手なアウトレーンになっていて、「終わったな...」と思っていました。ただ、スタジアムに入ったら監督に「走り終わったらウイニングランでここに来るから待っていてください」と宣言して、覚悟を決めました。

世界パラ陸上選手権大会ロンドン2017 400mで銅メダルを獲得した辻沙絵選手

ここからは、メダルを取った日のことを1日の流れに沿ってお伺いしたいと思います。まず、朝起きてからホテルを出発するまでの過ごし方についてです。食事や睡眠はしっかりとれましたか?

鈴木
今回はホテル暮らしだったんですが、食事の面でいうと、2週間近くいるとどうしても出される食事に飽きるんですよね。特にアスリートに配慮した料理ではないですし、一般の方と同じ食事です。パラリンピックの選手村の食事も同じですよ。アスリート用の食事っていうより、各国の料理が並んでいる感じです。
睡眠については、今回のホテルはよく眠れて良かったですね。こちらも逆に、パラリンピックの選手村は6畳の部屋に相部屋で、ベッドも小さくてすごく狭いです。テレビも冷蔵庫もないんですよ。冷蔵庫はトレーナールームにあるんですが、そこまで移動しなくてはいけないんですね。食事をとるのに2,3分歩くのは一番きついですね。

インタビューに応える鈴木選手


私もよく眠れました。意外と枕もフィットしたみたいで。
逆に食事はちょっと合わなかったですね。それに備えて、日本食もたくさん持っていきました。今回は監督に来ていただけたので、食事の用意もしていただけました。というのも、試合が終わるのが夜の11時で、ホテルに帰ってくるのが12時になるんですね。ホテルも、その周辺のレストランもすでに閉まっているんですよ。なので、監督が作ってくれたものを帰りのバスで食べて、とても助けていただけました。そういった意味では、サブトラックに捕食があればいいかなって思いますね。

ロンドンは大都市ですが、移動はスムーズでしたか?渋滞はしませんでしたか?


渋滞は結構ありましたね。特に1日だけ、何かのイベントと同じ日になったことがあって、他の日は1時間かからずに着くところを1時間半ぐらいかかる日がありました。私は余裕をもってホテルを出るようにしていましたが、やはりストレスにはなりました。

インタビューに応える辻選手

鈴木
私の試合は朝の時間帯だったので、そこまで渋滞せずスムーズに会場入りできました。ただ、運転手がたびたび道を間違えるんですよ。地元の方だとは思いますが、多分慣れてないんでしょうね。違うところで高速道路降りてしまったりしていました。
それから、みんな同じバスに乗るので、海外の選手と同じになるんですけど、彼らうるさいんですよ(笑)携帯電話で音楽を聴くときも爆音にしているんで、本当にうるさい時はヘッドフォンをしたりしていました。
輸送の面で感じるのは、パラリンピックの選手、特に車いすの選手は乗り降りに時間がかかるので、東京2020大会ではそういった点もケアしていただきたいと思います。

続いて、ウォーミングアップ方法など、会場に入ってからレース開始までの過ごし方について教えてください。

鈴木
会場には各国のテントがありますので、選手みんな同じだと思いますけど、会場に入ったらまずそこに向かいますね。テントの中にシートがあるのでそこでくつろいだりしてリラックスして、その後ウォーミングアップをします。私はウォーミングアップが短くて20分ぐらいで終わってしまうんですよ(笑)。今回は天気が良かったこともあって、競技にとても入りやすかったですね。

会場の雰囲気も良かったですね。観客もたくさん入っていましたし、テンションが上がりました。先ほども言ったように、ロンドンの観客は楽しみ方を知っているので、跳躍競技ではたいてい手拍子が起こります。逆に、やらない選手がいると「お前はやらないのか」、みたいな(笑)。ご飯を食べている時も手拍子が起こるとあわてて食べるのをやめて手拍子をしているのも見ましたし、面白かったですよ。日本だと、勝負所の一本以外は手拍子を促しづらい空気があるんですが、ロンドンのようにどの選手も毎回やると盛り上がりますよね。


私は、ウォーミングアップに1時間半ぐらい時間をかけます。決まりがあるわけではなくて、その日の体調に応じて、自分に必要な動きを監督と相談しながらこの動きを入れようとか、これはやめようとか、レースではもう少し低姿勢で行きたいのでチューブで引っ張ってほしいとか、いろいろですね。大会期間中はレースが続いて疲れが残っていたりするので、そういう時はウォーミングアップを短くして体力を残して臨んだりすることもあります。

会場の雰囲気は最高でした。鈴木選手からもありましたが、ロンドンの観客はパラスポーツへの理解があって、見方を知っていると思いました。子どもたちだけでなく大人の方も「このフィールドに立っている選手たちはみんなヒーローなんだ」と思ってくれていて、スタート地点に向かっているとサインやハイタッチをお願いされたりするんですよ。たまに「ユニフォームちょうだい!」とか(笑)
他にも、選手紹介の時に、電光掲示板に障がいの部位を記されていて、すぐにどんな選手なのかがわかるようになっていました。

コールルームではどのように過ごされていましたか?

鈴木
今回はパラリンピック経験のあるロンドン開催なので、他と比べて、絶対に盛り上がる試合だというワクワク感が最初からありましたし、会場の雰囲気もすごく良かったです。だから、コールルームでは自分も普段とは違う過ごし方をしようと考え、他の選手と一緒に練習場所や記録などの話をしながら、リラックスした雰囲気で過ごせました。今までは、試合前に他の選手とコミュニケーションをとることはあまりなかったのですが、試合全体の良い雰囲気が普段とは違う自分を引き出したのだと思いますし、試合でも良い結果を残すことができました。

国際大会で注目度も高いので、プレッシャーがあったのではないですか?


リオ2016大会が終わってから色んな人と出会う機会があり、ロンドンでのメダルも期待していると言ってもらえることが多かったです。応援していただけるのは本当に嬉しいのですが、実際の自分のコンディションがあまり良くなくて・・・。十分に練習ができている状態ではなく、タイムも上がってきていなかったので、それに対する不安やフラストレーションがありました。

先ほどもお話ししましたが、試合前に400mのレーンがアウトレーンだとわかって、さらに緊張が高まりました。リオ2016大会ではインレーンだったので、他の選手を見ながら走れたんですよ。だけど、アウトレーンで走る場合は、他の選手は見ることができず、後ろから追われる立場になるんですね。自分にとってはあまり良いレーンではないと思ったのですが、それを気にしてもしょうがないので、監督と相談して前半から勝負をかけることを決めました。
また、監督の提案でレースの前にスタジアムの観客席に行ったことも良かったと思います。観客席からスタジアムを見ることで、自分が走っている姿を客観的にイメージすることができ、レースに向けて気持ちを作ることができました。

レース中は、「何が何でもメダルを獲る」「死んでも倒れてもいい」と思うぐらい必死だったので、後ろから他の選手が来ているのも気にならないぐらい集中できましたね。実際、4、5番手の選手と競っていたことは、試合後に映像を見て知りました。
今回は自分にとって、苦しい大会、苦しい1分間でした。だから、ゴールした瞬間はメダルを獲れた喜びよりも、やっと大会が終わったという達成感のほうが大きかったです。

インタビュー中の両選手

走り高跳びの場合、一旦最高潮に高まった緊張が試技ごとに繰り返されるので、何度も集中力を高める必要があると思います、集中力を途切れさせないために、何か工夫されていることはありますか?

鈴木
走り高跳びの場合は試合時間が長いので、ずっと集中することは難しいと思います。だから、その時間をどのように過ごすかが重要なのですが、私の場合は観客席を眺めたり、コーチとコミュニケーションをとったりすることで、リラックスして、自分のペースを取り戻すようにしています。
先ほどからお話しているとおり、今回の大会では会場の雰囲気がとても良かったので、自ら観客へ手拍子を促しました。観客が協力的で一緒に盛り上がることができ、それによって自分の気分を高めることができたので、全ての試技において力が出し切れたと思います。
リオ2016大会から進化した姿を見せたいという強い気持ちで臨んでいたので、実際に2m越えという結果を出せて、自分にとってとても良い大会になりました。

大会の運営について

ロンドンは2012年にパラリンピックが開催され、その5年後に今回の大きな大会が開催されました。2012年と比較して、運営面で改善されたと感じた点はありましたか?

鈴木
ロンドン2012大会の際も他の大会と比較してすごいと思うポイントがあったのですが、今回はさらにパワーアップしていると感じました。先ほど辻選手も言っていましたが、観客がわかりやすいように、スタジアムのビジョンを使用して出場選手の障がいの説明を行ったり、メダルセレモニーを入場無料のスタジアムの外で行って多くの人々を巻き込んだり、今までの大会に無い工夫がされていました。
また、運営面でもスタッフの数や選手の要望への対応なども心地よく、大会全体で選手への配慮が感じられました。

インタビュー後編「パラスポーツの盛り上げ・東京2020大会への期待」

インタビュー動画(別ウィンドウで開く)

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